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三浦 周二朗ブログ

 ブログというか、まぁ思いついたものを書いています。 ショートアニメを作っています。元舞台役者です。

仮面のピアニスト

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仮面のピアニスト

 

 美容関係の会社のイベントに役者として出演したことがあります。ディレクターの意向で、役者は全て、顔が完全に隠れる仮面をつけての出演でした。

 イベントが始まるまでの時間、会場には、フランスの名ピアニスト、リチャード・クレーダーマンのCDを流しておこうという事になりました。舞台の上にはグランドピアノがありました。ディレクターが思いつきで、「君、ピアノの前で、ピアノを弾いているフリをしていてよ」と私に言いました。

 私はピアノを弾けませんが、役者ですからね。さも、弾いているような演技は出来るんですよ。会場にはご馳走も用意してありました。美容業界は景気がよかったのです。開場して、しばらく演技を続けていると、数人のお客さんが、ご馳走を無視して、私を見つめているのに気付きました。ひそひそとささやき合っているのです。

「あの人、うまい!」

 客席からは私の手元は見えないようになっていたのです。私が本当にピアノを弾いていると勘違いしてしまったんですね。実際はピアノには触ってもいません。

上手いはずですよ、音を鳴らしているのは、リチャード・クレーダーマン本人ですからね。大変な勘違いをしているようなのです。リチャード・クレーダーマンと同等の演奏が出来る人が、こんな地方の小さなイベントで、仮面をつけてピアノを弾いているなんて! 彼女たちは、私の仮面の下に、悲劇の天才ピアニストの素顔を想像していたのかも知れません。

 そのプレッシャーに耐えられなくなりました。騒ぎが大きくなったりしたら、イベントそのものに影響しかねません。

 ディレクターの指示に反しますが、私は、わざと演技をずらして「私は弾いていませんよ!」というアピールをしました。

「なぁんだ」

という声が返ってきました。人だかりはご馳走の方へ行きました。役者として、お客さんの後ろ姿を見るのはつらかったですが、ご馳走の方は本物です。

 イベントの後、ディレクターには「やっぱり、バレちゃいました」と報告しました。彼も「だろうな」と笑っていました。

 役者はお客さんに、そういう勘違いをさせてはいけないのです。

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イラスト
by grandfailure

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