ブログというか、まぁ思いついたものを書いています。 ショートアニメを作っています。元舞台役者です。
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クラッシック・コンサートなどでは、演奏が終わり、出演者が去った後も拍手が鳴り止まず、出演者が再登場という事があります。演劇の世界では、これをダブルコールというそうです。
私が関わったような小劇場の演劇では、ダブルコールは、ほとんどなく、出演者が去って、観客が拍手を終えれば、もう公演はおしまいです。出演者がダブルコールに備えて、準備をするということは、まずありません。ただ一度だけ、ダブルコールの現場に役者として、居合わせたことがあります。
その日は出演者もスタッフもみんな調子が良かったのです。観客のノリも良く、大きなミスもなく、劇場が一体になったような最高の公演でした。
私達のようなマイナーな演劇公演では「客出し」という習慣があります。出演者が劇場のロビーで、お帰りになるお客様を見送るのです。その時、見に来てくれた友達や家族にお礼が言えます。知らないお客さんに褒められたりすることもあります。
その日は最高の公演でしたからね。私は早くお客様達に、お礼が言いたくて、ロビーに走って行きました。ロビーにはすでに、その公演の演出家がいました。私達は何も言葉を交わしませんでしたが、笑顔でアイコンタクトしました。今夜の公演は最高だったとお互いわかっていたのです。こういう時、言葉は要りませんね。
演出家と並んで、お客さんが出てくるのを待っていました。最高の瞬間でした。
しかし、お客さんが出てこないのです。ありえないくらい長い時間、私と演出家で、お客さんを待っていました。「どうなっているのだ?」待ちきれず、客席のドアを開けて中をのぞいてみました。
中は、割れんばかりの拍手の渦。私以外の出演者達が、舞台の上で、それに応えているのです。
ダブルコールだ!
自然発生的にダブルコールが生まれたのです。そんなことがあろうとは! 慌てて、舞台に戻ろうとしましたが、もうダブルコールは終わるところでした。私はダブルコールを逃した唯一の出演者でした。こうして、私は、おそらく、生涯のうちで、ダブルコールを受ける唯一のチャンスを逃したのです。
あわてる役者はもらいが少ない。
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イラスト by mounel