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三浦 周二朗ブログ

 ブログというか、まぁ思いついたものを書いています。 ショートアニメを作っています。元舞台役者です。

父の職業病

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父の職業病

 

 私の父は地元新聞社の記者でした。しかし40代で難聴となり、取材記者ではなく校閲に配属されました。印刷前の記事に誤字脱字や間違いがないか調べる仕事です。これなら耳が聞こえなくてもいい訳です。地味で根気の要る緻密な作業が向いていたらしく、社内で「10人力」と恐れられていたそうです。

 しかしこの職業病が介護をめんどくさくしました。

 難聴ですから、大事な話は筆談になるのですが、見せた文章が間違っていたり、不味かったりすると怒り出すのです。私は文章を父に見せるときには、試験の答案を出すときのように緊張しました。

 父は62歳の時に完全人工透析となり、週に3回病院に通わなくてはならなくなってしまいました。辛い透析生活は16年続きました。

ある日、私は病院から呼び出されて、若い担当看護師から相談を受けました。

「お父さんが、言うことを聞いてくださらないのです。最近は私の書いたメモも、読んでさえくれないんです」

と、今朝看護師さんが書いたというメモを見せてくれました。読んで、父がこの人の文章を読まない理由が想像できました。

 看護師さんの名誉のために書きますが、看護師には多様な能力が求められます。新聞さえ作っていればいい新聞屋とは違います。文章を書くのは上手いけど、注射が下手な看護師さんがいたとしたら、私は決して近づきたいと思いません。漢字は間違えないけど薬を間違える看護師がいる病院からは、私は一目散に逃げ出します。

 校閲を仕事にしていた父からすると、あるいは厳しく指導して、いい文章を書かせる教育をしているつもりだったのかも知れません。あの世代の人たちは「教育は厳しければ厳しいほどいい」みたいに思い込んでいる所がありますからね。

 私は父に頼みました。

「最近の若い人は厳しく教育されることに慣れていないのです。もう少し手加減してあげてください。」

その後、父の対応は少し優しくなったそうです。

 私たちが介護を受ける立場になったら、同じ事があるかも知れません。私などは芝居をかじっておりましたので、老人施設に慰問に来た若い劇団員に

「こんな芝居見てられるか!」

と怒るかも知れません。

高齢の料理人は入院先で

「こんな料理食べられるか!」

と怒り

年老いた大工は施設に入る時

「こんな下手な大工が作った施設には入れるか!」

と怒り出すかも知れません。

 高齢者は何らかの職業病を持っているのが当たり前で、「めんどくさい年寄り」の正体はもしかしたら職業病なのかも知れません。そして、私たちが年老いた時、私たちの職業病は私たちを「めんどくさい年寄り」にするのかも知れませんね。

イラスト by patrykkosmider

英語
http://shujiromiura.blogspot.jp/

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