ブログというか、まぁ思いついたものを書いています。 ショートアニメを作っています。元舞台役者です。
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アルツハイマー型認知症のあるステージで鏡像認知障害というのが現れる事があります。鏡が理解できないようになって、鏡に映った自分と話をする症状です。
私の母にも現れました。鏡の前でぶつぶつ話をするようになったのです。
ある日、夕飯の準備が出来たので
「こっちに来てください」
と声をかけると
「『こっちへ来い』と言っとるよ」
と鏡の中の自分に話しかけました。そして、鏡の中の自分が、鏡から出てくるのを待っていました。鏡の中の人と一緒にご飯を食べようと思ったのですね。気遣いの人です。
実はこれは珍しい症状で、アルツハイマー患者の全てに現れるわけではないのだそうです。
母は鏡の中の自分といつも楽しそうにおしゃべりしていましたので、問題にはなりませんでした。楽しそうでしたので、ほかっておきました。私が相手しなくてよくて、楽でよかったです。しかし、人によっては、鏡の中の自分とケンカになることもあるそうです。ものを投げつけて鏡が割れて、ケガをすることもあるそうです。そうなると問題ですね。
鏡とお話をする有名な人は白雪姫の義母さんですね。実はアルツハイマー患者だったかもしれません。
白雪姫の義母さんは、魔法の鏡が「白雪姫推し」なのを聞いて、白雪姫を殺そうとします。そんなことせずに、鏡とケンカして、鏡を割ってケガをしたらよかったですね。そこで、めでたし、めでたしです。
English
イラスト byよぴんこ
これは元気だった頃の母から聞いた話です。
私の大叔母は愛知県で最初の女性医学博士でした。第二次世界大戦中、名古屋市内の総合病院で働いていたそうです。
空襲の後、病院は大変なことになっていたそうです。
医師も看護師も不眠不休だったのでしょう。
ある日、大叔母は医院長からこう言われます。
「医師にも休みは必要だ」
休暇を出されて、母の家に来たそうです。
七輪でお餅を焼き始めました。
大叔母は
「まちきれん」
と、おもちの焼けたところからはがして食べ始めたそうです。当時、小学校に上がるか上がらないかの頃の母は、大叔母のことを「少しバカなのかな?」と思ったそうです。
私はこの話を子どもの頃に聞きましたが、大人になって、その意味がわかるようになりました。
空襲の後の病院の医師。この不眠不休は、ただの不眠不休ではありません。自分が寝ている間に、食事をしている間に、トイレに行っている間に、次々と人が死ぬかも知れないという不眠不休です。
その姿を見ている医院長が、医師に休暇を出すというのは大変な決断です。休暇を出すことによって死ぬ人もいるからです。しかし、ここで医師が倒れてしまったら、何百という人の命に関わります。鬼のような仏の判断です。
大叔母は休暇で祖母の元を訪れ、姪っ子である母のあどけない姿を見て、急に自分が飢餓状態にあることを思い出したのですね。お餅が焼けるまで待ちきれなかったのです。
医療関係者がゆとりある勤務態勢を維持できるといいですね。最低、休暇の日、お餅が焼き上がるまで、待てるくらいのゆとりは欲しいですね。
イラスト by マイザ
私の大叔父は変わった人でした。私が認知症の介護をした大叔母の夫です。元気な頃は、模型飛行機を作って河原で飛ばしたりしていました。カメラ販売店の店主でしたが、カメラを売ることよりも、改造したり、奇妙な写真を撮って面白がったりする人でした。私が子どもの頃、子ども相手とは思えないような真剣な冗談を言ったりして、驚かせてくれたものです。高齢者になっても最新の音楽に興味を持っていました。私とは血縁関係にはありませんが、「親戚の中で誰が私に一番似ている?」と問われれば、この人です。
84歳で他界しましたが、それまで何度も倒れて、入退院を繰り返していました。当時、私は大阪に住んでおり、「いよいよ危ない」との知らせを受けて、何回か名古屋の病院に駆けつけたものです。
その時、大叔父が病院のベッドで奇妙なことを言ったことがあります。
「幻覚が見えた」
それは大変です。私は心配しました。ところが大叔父は大喜びなのです。
「こんなおもしろい物はない。タダで映画が見られるようなものだ」
さらに治療してくれている医師や看護師に対する不平を言っているのです。
「『幻覚が見える』と言ったら、薬をうたれた。そしたら見えなくなって、おもしろくない。余計なことをしてくれた」
どう返事していいのか戸惑っている私に、大叔父はこう続けました。
「周ちゃん、秘密が守れるか?」
死の床にあるかも知れない親戚にこう言われたら、「はい」としか答えられません。大叔父は続けました。
「実はまだ少し見えるんだ」
大叔父は病室の隅にあったロッカーを指さし、
「あそこに駅のホームが見える」
病室を出て、私は悩みました。大叔父が幻覚を見ていることを、医師や看護師に報告すべきだろうか? しかしそうすると、もっと薬をうたれるかも知れない。せっかく楽しんでみているのなら、見せてあげた方がいいのではないか? しかし、適切な治療に繋がるなら、大叔父との約束は反故にして、報告すべきでは?
結局、私はその事を誰にも言いませんでした。
数週間後、大叔父は退院しました。退院時に幻覚が見えていたかどうかは知りません。
数年後、ついに帰らぬ人となりました。
葬式後、火葬場に向かう車の中で、初めて幻覚の話を親戚にしました。
私は大叔父との約束を守ったのです。
死の前に、楽しい幻覚が見えるのだったら嬉しいですね。もしかしたら、それは天国の予告編なのかも知れません。
English
イラスト by freehand
私が学生の頃、名古屋の大学の多くは郊外にキャンパスを建てました。私もその郊外のキャンパスに通っていました。
ある日、大学の周辺の山を散歩していると、猟銃を持ち、猟犬を連れた2人組の猟師さんに会いました。猟師さんに会うのは初めてでした。「こんにちは」と声をかけると。
「今日からキジが解禁なんだ」
と、うれしそうに教えてくれました。
もうしばらく歩いて行くと立て看板がありました。こう書いてありました。
「猟師のみなさんへ。この近所で発砲しないでください」
大変なところに大学を作りましたね。
三十年たちました。最近になって、その大学を訪れることがあって、最寄り駅の変貌ぶりにびっくりしました。畑ばかりだったのに、巨大マンションが建ち並んでいるのです。
もう、ここでは、猟師さんには会えないかも知れませんね。
English
イラスト by Igor Sapozhkov