ブログというか、まぁ思いついたものを書いています。 ショートアニメを作っています。元舞台役者です。
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私の祖母の妹、大叔母は2007年にアルツハイマー型認知症と診断されました。夫に先立たれて、お子様はおらず、一人暮らしでした。それから約3年間、私は大叔母の暮らしを支援しました。毎日電話して薬を飲まし、毎週訪ねていって掃除をして、毎月病院に連れて行って受診させました。
私の母もそうですが、大叔母はもともと頭のいい人でした。読書が趣味で蔵書も多く、何冊も借りて読ませてもらいました。若い頃は弓道の愛知県代表で何回も京都の全国大会に出場したそうです。文武両道だったの訳です。
そしてどうやら、認知症患者としては珍しく、自分が認知症であると気づいていたようです。今から考えると、大叔母はいくつか対策を立てていたのです。
1つは毎日散歩に出る。一見認知症患者には徘徊の危険があるように思えますが、大叔母の場合は有益でした。毎日決まったコースを歩くようにしていれば、迷いませんし、近所の人に自分の無事を知らせることが出来ます。大叔母はその地域では顔見知りが多かったようです。
2つ目は自炊をやめて、朝食は喫茶店、昼はスーパーのお総菜、夕飯は近所の定食屋と同じ店で食べていました。失火対策です。そしてそれらの店に私を連れて行き紹介してくれました。体調が悪そうな時、顔を見せない時は喫茶店等のマスターから私に連絡が来るようにしたのです。実際に何回か連絡がありとんでいったことがあります。
3つ目は自宅のお風呂を壊して、近所の銭湯に行くようにした事です。高齢者が亡くなるのは風呂場が多いそうです。銭湯なら何かあったとき、近くに人がいます。お風呂屋さんには迷惑でしたでしょうが、大叔母の家には、お風呂屋からガメてきた備品がありました。
4、新聞と牛乳をとり続けた。大叔母が新聞を読んだ形跡はありませんでした。牛乳も飲みません。私が毎週訪ねていって、最初にやることは冷蔵庫にたまった牛乳を処分することです。めんどくさいし、もったいない。私は大叔母に新聞と牛乳の購入をやめるように提案しましたが、かたくなに拒否されました。後で分かったことですが、玄関に新聞や牛乳がたまると、警察に連絡が行くというシステムがあるのです。最悪の事態の場合、警察に発見してもらえるのです。警察に発見してもらえれば話が早い。
5、お寺の和尚さんに、亡夫の月命日に読経に来てもらうようにしていました。これをやっておけば、最悪の事態になっても、一ヶ月以内に和尚さんが発見してくれます。和尚さんに発見してもらえれば、もっと話が早い。大叔母は元気な時期はこれをやっていませんでした。
私が気づいて思いだせるのはこれだけですが、他にも色々やっていたのかも知れません。
基本的には自分に関わる人を増やすことです。認知症患者は引きこもりがちですが、大叔母はあえて外に出るようにしていたんですね。
ある時、私が大叔母と歩いていると、すれ違った初老の女性が私に耳打ちをしました。
「この人ちょっとおかしいよ」
私は答えました。
「知っています。要介護認定も受けています。」
その女性から離れた後、大叔母は私に言いました。
「あの人、私がおかしいって言ったんだろう?」
大叔母が自分の病気のことを知っているのに驚きましたし、近所の人に噂されていることにも気づいていることにも驚きました。
悪い噂をされることを承知で、自分を世間にさらしながら散歩に、食事に、銭湯に行っていたんですね。大叔母は毅然とこの病気に立ち向かっていたんですね。
私はほんの助太刀をしただけです。
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イラスト by teltel-woo