ブログというか、まぁ思いついたものを書いています。 ショートアニメを作っています。元舞台役者です。
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1996年5月、当時大阪の院生だった私は、とある学会のお手伝いで受付をやりました。学会の受付というのは芝居の受付に比べると、かなり楽です。チケットもありませんし、現金のやりとりがありません。学会に参加される方の名簿があって、いらっしゃった方のお名前をうかがって、マークをつけるだけです。
ところで、この日、一緒に受付をした隣の女性が大変な美女でした。どうやら学部生(大学生)のようです。学部生でありながら、学会の受付をするなんていうことは、ゼミの中心人物とか、若くして研究者を志しているとか、才色兼備に違いありません。おしゃべりなタイプではなくて、黙々と受付をしていました。美女の前では緊張して話が出来なくなる私は、なんとか話しかけるきっかけはないかと色々考えておりました。名簿をぼんやり見ていると、出席予定者のうちに一人、読み方のわからない苗字の方がみえました。
この人の苗字の読み方を聞いてみようかしら? 大変珍しい苗字で、初見で読める人はまずいないだろうという苗字です。そもそも四文字の苗字なんて初めて見ました。おそらく彼女にも読めないでしょう。何でもすぐに検索できる時代ではありませんでした。二人でああでもないこうでもないと話し合ううちにお近づきになれるかもしれません。
意を決して彼女に聞いてみました。
「この方の苗字なんて読むんですかねぇ?」
ところが彼女はその名前を見るなり
「それは私がやります」
とそっけない。沈黙が戻りました。
彼女のそのリアクションの意味がその場ではわかりませんでした。院生の私が読めなかったその苗字を、学部生の彼女が一瞬で読み解いたというのは解ります。才色兼備は確定。しかし私に正解を教えてくれないというのはどういうわけでしょう。この一瞬で私に下心があるのと見抜いたのでしょうか? 才色兼備を通り越してエスパーです。私の口臭がきつかった? いろいろ悩みましたが、結局その日は彼女のリアクションの謎は解けませんでした。
後日、彼女のリアクションの意味が理解できました。私が読み方がわからなくて指さした難しい苗字の方こそ、誰あろう彼女のお父さんだったのです。彼女は独身でしたから、もちろん彼女の苗字でもあります。彼女はお父さんの縁で学会の受付を手伝っていたんですね。しかも、もっと恥ずかしいことに、お父さんはその世界では大変有名な大先生だったのです。
院生でありながら、高名な先生のお名前も読めず、あろうことか、そのお嬢さん本人に読み方を聞くとは!
そのお嬢さんとはそれっきり。校内で時々お姿を拝見しましたが、恥ずかしくて声をかけられませんでした。
その先生、この後、もっともっと有名になって、今でも時々マジメなテレビ番組などにご出演なさっています。
あの時、頑張って会話を続けていれば、あるいはこの人を「お義父さん」と呼んでいたかもしれないのになぁ。
English
写真 by xiangtao