ブログというか、まぁ思いついたものを書いています。 ショートアニメを作っています。元舞台役者です。
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1988年、大学1年の時、夏、自転車で東日本を走る旅に出ました。東京で一夜を過ごし、次の目的地は茨城県、霞ヶ浦のユースホステル。
走っていると「反原発」と書かれたシャツを着て、私よりも大荷物を自転車に乗せて走っている人に追いつきました。面白そうな人なので、しばらくその人の後を付いて行ったのですが、この人のスピードがすごく遅い。ガマンできなくなり追い越して、日が暮れる前には目的地に着きました。
今はどうか知りませんが、当時の地方のユースホステルというのは旅人同士がワイワイおしゃべりしながら一夜を過ごすという感じのパラダイスで、その夜も楽しく話していました。
「お仕事は何ですか?」
誰かが1人の男性に聞きました。
「原子力発電所で働いています」
それを聞いて私はその日追い越した人のことを思い出しました。
「そういえば今日、反原発のシャツを着て自転車で走っている人を見ましたよ」
と話すとその男性、
「そういう意見もありますがね・・・」
と立て板に水、原発の必要性を説明し始めました。まぁみんなニコニコ聞いていましたよ。チェルノブイリの事故から2年後でしたが、遠い異国の話ですからね。
とっぷりと日も暮れて、みんな食事も終えて、お風呂も終え、くつろいでいると、ユースホステルのおばさんが困った顔でこう言いました。
「今日予約している人がまだ来ない。食事も片付けられないし、お風呂も抜けない」
「キャンセルじゃないですか?」とみんな言いましたが、おばさん
「東京の人で、今自転車でこちらに向かっていると電話があったんです。」
私もその日東京から自転車でここに着いたのですが、途中、旅行荷物を積んだ自転車はあの反原発のシャツを着た人しか追い抜いていないのです。
「もしかして、私が追い抜かした反原発の人じゃないですか?」
「そんなはずないよ」とみんな笑っていました。
しばらくして、問題の旅行者が到着しました。果たしてその旅行者のシャツには真っ赤な文字で「反原発」と書いてあったのです。
緊張したのは原発の職員。他の旅行者一同もびっくりしました。
反原発の人はとりあえず風呂に行き、私たちはどうしたモノか戸惑っていました。
口の達者な旅行者がふざけて、実況解説を始めたりしました。
「さぁ! 世紀の対決が目前に迫っております! 挑戦者は現在風呂から上がり、脱衣所で服を着ている模様! もちろんシャツには『反原発』! 原発職員どう迎え撃つか!」
ここへ来て原発職員の顔色も青くなり、声も小さくなってきました。
「私だってね、好きで原発に勤めているわけじゃないんですよ。それは私の仕事ですからね、仕方がないんですよ・・・」
反原発の人も風呂を終えて、みんなの輪に加わりました。彼の旅行プランは「反原発」のシャツを着て、東北各地の原発をすべて回るというものだそうです。みんな緊張して声も出ません。
私は18才、もちろん世間知らずの怖い物知らず。原発職員を指さしてこう言いました。
「この人、原発で働いてるんですよ!」
長い沈黙の後、反原発の人が言いました。
「そういう人のお話を伺いたかったんです!」
その後2人がどんな話をしたのか忘れましたが、結局ユースホステルの和気あいあいに戻りましたよ。
あれから30年。今ではあの原発職員も出世したでしょうし、あの反原発の人もその世界のリーダーになっているかも知れません。時は1988年。福島の事故が起こる、はるか前のお話しです。
今はもう、あんな風に和気あいあいと話したりできないんだろうぁ。
イラスト by kathygold
英語
http://shujiromiura.blogspot.jp/