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三浦 周二朗ブログ

 ブログというか、まぁ思いついたものを書いています。 ショートアニメを作っています。元舞台役者です。

知床の鬼

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知床の鬼

 

  1988年。大学1年生だった私は自転車に乗って東日本一周の旅に出ました。北海道の知床半島に近づいたとき、車に乗った中年男性に声をかけられました。

「知床行くなら乗せていってあげるよ。」

中年男性は私の自転車をトランクに、私を助手席に乗せて走り出しました。いろいろ話しながらドライブを楽しんでいると、ふと、男性の顔色が変わった。

「ちょっとごめんね」

と車を停めて、道ばたを歩いていたカップルに近づいていく。そして中年男性、顔真っ赤にして、鬼の形相でカップルに怒りだした。私のいた場所からは話の内容までは聞き取れないが、ただ事ではない。

(しまった! 異常者の車に乗ってしまった! どうやって逃げよう・・・)

 しばらくして中年男性は車に帰ってきた。

「動物にエサをあげてはいけないんだ・・・」

手短に説明されたが、何が起こったのか私は理解できない。確かにカップルの足下にはパンのようなものが置かれていた。男性に注意されてそれを片付けていました。

私はただ、できるだけ早くこの異常者の車から脱出したくて必死でした。もちろん連絡先の交換もせずに別れました。

 後にこの男性が何をしていたのか理解しました。

 北海道で野生動物を餌付けするのは厳禁です。人間からエサがもらえると覚えたキタキツネは道路に出て来て車にひかれて死にます。人間とエサを結びつけてしまった熊は人里に下りてきます。人里に下りてきた熊は射殺するしかありません。事情を知らない観光客が安易に動物にエサを与えるのは、動物と人間の命を脅かす危険な行為なのです。

 あの中年男性は、動物にエサを与えている観光客を見つけては、鬼の形相で注意するというパトロールをしていたんですね。動物と人間の命を守る尊い行為だったのです。異常者だと思ってごめんなさい。

 一昨年、飛行機で北海道に行きました。テレビを観ると地元局のアナウンサーが「野生動物にエサをあげないよう、道民の私たちがお手本となりましょう!」

と呼びかけていました。

あれから三十年近く。「知床の鬼」は今もパトロールしているんですかねぇ? 

イラスト by ayacon

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三浦 周二朗
性別:
非公開

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