ブログというか、まぁ思いついたものを書いています。 ショートアニメを作っています。元舞台役者です。
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父は他界する7年ほど前、私に新車を買ってくれました。まぁ、人工透析の送り迎えを、私にやって欲しかったんですね。ところが私は車に興味がないし、運転が怖い。数年、ドアさえ開けないで、ほったらかしにしてやりました。しかし、いよいよ父は運転を禁じられ、人工透析の送り迎えをしなくてはならなくなりました。しかし、同時に、私は送迎サービスのある病院を見つけました。だから病院の送り迎えは数回で、後は、近所に買い物に行ったくらいで、ほとんど運転しませんでした。ディーラーの営業の人に「これならレンタカーした方が安いですよ」と笑われました。
父は他界し、その車は売ることにしました。小中と同級生だった人が近所で自動車修理工場を営んでいるので、見積もりをしてもらうことにしました。彼は車を調べた後こう言いました。
「23~25万円。23万なら今すぐ欲しい」
そこで少し悩みました。彼とは小中と、それ程、仲良くありませんでした。よそで聞いてみたらいくらになるだろう?
今度は、テレビやラジオのCMでおなじみの大手中古車会社に持ち込んでみました。受付の人はパソコンをはじいて値段を出しました。
「4万5千円」
ずっこけました。そして、同級生を疑ったことが恥ずかしくなりました。即座に引き返して、旧友に24万円くらいで売ろうと思い、席を立とうとしました。ところが、その中古車会社の人が帰してくれない。売ってくれとうるさい。
「いくらなら売ってくれるんですか? 言ってくださいよ! 私も命かけてこの仕事やってるんですから!」
それならと、言ってやりました。
「26万円!」
中古車会社の人は一瞬ひるみましたが、結局、渋々ながらその値段で買い取りました。
中古車業界ってどうなってるの?
すべての業界に友達が要りますね。
English
イラスト by しんたこ
認知症の母には、ある時期からオムツを使ってもらうようにしました。オムツを使ってもらうタイミングは難しくて、タイミングを早すぎると、本人が怒ってしまって、オムツをしてくれなかったりするのです。認知症患者の多くは自分が病気だという自覚がありません。私達だって、突然、誰かに「オムツをしろ」と言われたら怒りますよね。
母の場合はケアマネさんが絶妙のタイミングでオムツをすすめてくれたおかげか、すんなりとオムツに移行できました。
ただし、母の前では「オムツ」という言葉を使わないように気をつけていました。認知症になっても、自分が「オムツ」を使っているという認識は屈辱なのです。母の前では「リハビリパンツ」という言葉を使っていました。これもケアマネさんに教えてもらった事です。
母に認知症の診断がおりて約十年が過ぎた頃、もう会話も成り立たないことが多くなったある日、私と愛妻は油断して、ついうっかり、母の前で、「オムツ」という言葉を使ってしまいました。すると母は怒り出したのです。
「誰がオムツを使うの! 私はオムツなんてせんよ!」
とっさに私はこう言いました。
「私のオムツの話をしているんです。私はオムツをしているのです」
すると母は安心してこう言いました。
「あんたのオムツの話か、ならいいわ」
50才も近い息子がオムツを使っているのも心配だと思いますが、母が納得するのならそれでいいのです。
よい認知症介護者は、よい役者でなくてはならない。即興芝居やアドリブ等の経験は認知症介護の現場では大変役に立ちます。
English
イラスト by hermandesign2015
2001年頃、私は東京に住んでいました。東京の素晴らしいところは、演劇の層が厚いことです。週末には色々な劇団の色々な公演を見に行っていました。
ある週末、ある劇団の公演を見に行こうと、ある劇場に向かっていました。すると、ダフ屋がいました。
「チケットあるよー、チケットあるよー」
びっくりしました。通常、私が見に行くような小劇場系劇団の芝居にはダフ屋なんて出ないのです。しかも、このダフ屋、少しおかしい。
名古屋の私の実家は大きなコンサート会場が近くにあって、私はダフ屋を見慣れています。ダフ屋は人気に敏感な人たちで、有名アーティストのコンサートでも、本当にチケットが余るような公演にはダフ屋は出ません。人気がありすぎてチケットがとれない公演にだけダフ屋は出るのです。
私が見に行こうとしている劇団の公演は、決してそんな公演ではないのです。しかもダフ屋は一人きり。基本、ダフ屋は複数で行動しています。ダフ屋が1人なのを初めて見ました。
そしてそのダフ屋の雰囲気。私が知っているダフ屋とは、まとっている空気が違うのです。むしろ芝居のスタッフさんのような雰囲気です。
決定的なのは、腰のウエストバッグにつるしている黒いガムテープ。黒いガムテープを私達は「黒ガム」と呼びます。黒ガムは劇場では本当に役に立つアイテムですが、劇場以外では使う機会はほとんどありません。まして、ダフ屋が腰からぶら下げているはずはないのです。
あれは、「ダフ屋風の呼び込み」だったのですね。
当日までに前売り券が完売せず、空席があったんでしょう。その席を埋めるために、スタッフの1人が、「ダフ屋の役」をして劇場の近くに立っていたのだと思います。
東京には出張でお越しになる地方の方も多いでしょう。遊びに来ている人も多いです。中には時間をもてあまして、ウロウロしている人もいるのです。そこでダフ屋が芝居のチケットを売っている。ダフ屋が出るような公演は、人気のある公演だと決まっています。面白くないわけがありません。買う人もいるでしょう。
私はチケットを持っておりましたので、そのダフ屋から買いませんでしたが、おそらく前売り料金か、当日料金で売っていたのでしょう。それならば、ダフ屋風のチケット販売人であって、ダフ屋行為はしていないことになります。
劇団としても空席が埋まり、収入が増えます。満席になれば役者の士気も上がります。
東京公演を計画中の地方劇団の皆さん! この手は使えますよ! 東京公演でチケットが完売するかも? ただし、ダフ屋行為は違法なので、ダフ屋役をする人は警察に引っ張られるかも知れませんがね。
English
イラスト by スキルインフォメーションズ
アルツハイマー型認知症の母は、時々、目に見えない人と話をしています。この病気の特徴的な症状です。母の場合、多くはすでに他界した祖母や、大叔母と話をしていました。実は、私はこの話を注意深く聞いていました。母はもうすでに半分あの世に行っていて、実際に私達には見えない死者と話しているのではないかと疑っていたからです。と、このことを文章に書いて公開してしばらくしてからのことです。母がこんな事を言い出しました。
「あーちゃん(祖母)が来とる」
私はいつものように対応しました。
「そうですか。どこいますか?」
「私達の様子を隠れて見とる」
と母は答えます。隠れて見ていると言ったのは初めてでした。
私は言いました。
「隠れてないで、出てきたらいいのに。お茶くらい出しますよ」
すると母は少し間を置いて、こんな事を言いました。
「そんなことしたら調子が狂う。困る人もいる」
真剣に考えたらそうですね。実際に死者に出てこられては、調子が狂います。私を含め、人目に隠れて、やましいことをやった事がない人なんていません。死者が常に私達を見ているとしたら、皆困るでしょう。
祖母も母に会いに来ても、私が死後の世界の証拠を見つけようと待ち構えているので、隠れていないといけないのかも知れません。
施設に入ってからの母は、目が覚めているときは、よく、目に見えない誰かと話しています。時々、私には何を言っているのか分かりません。重度の認知症患者が喋る聞き取れない言葉を喃語(なんご)と言うそうです。もしかしたら、色々なお客さんが来ているのかも知れませんね。私の知らない外国語かも知れません。目に見えない外国のお客さんが来ているのかもしれません。死後の世界があるかどうか分かりませんが、少なくとも母は客好きですから、楽しんでくれているといいです。
English
イラスト by トラノスケ
学生時代、名古屋制作の幼児向けTV番組で、ぬいぐるみに入るバイトをしていた事があります。ぬいぐるみを着て演技をするのは、普通の演技とは求められる技術が異なり、それはそれで奥が深いモノでした。
通常、撮影スタジオで一番偉いのはディレクターです。何をどうするか決定権はディレクターにあります。その上にプロデューサーや映像会社の社長がいますが、めったにスタジオには来ませんし、来ても目立ちません。
でも、ある日、桁違いに偉い人がスタジオに来ました。
スポンサーの会社の人です。でも、現場に来た人は新入社員らしくて、まだスーツの着こなしもぎこちない若者でした。
ところが、この人に、スタジオの皆はニコニコ、ペコペコなのです。気むずかしいディレクターも、威厳ある先輩役者達も、無愛想なはずのスタッフの皆さんもみんな、私とそれ程、年の変わらないこの若者をチヤホヤするのです。スポンサーの会社の人も、自分の親ほどに年上のディレクターにペコペコされて、ドギマギしていました。
私は古いコントを見るようで笑いをこらえるのに必死でした。
世の中のことがよく分かっていなかったのですね。
有史以来、お金のことを気にしないで創作活動の出来る人は、一握りです。神か、王侯貴族か、パトロンか、民衆かスポンサーに愛されなければ、創作活動そのものができません。私のバイト代だってスポンサーに出してもらっていたのです。笑い事ではありません。
ギリシャ神話で芸術の女神はムーサだそうです。9人姉妹で一人一人担当する芸術が違うそうです。ミュージックの語源だとか。商売の神は男神へルメース。詳しくありませんが、きっと単純な関係じゃないんだと思いますよ。
私の周囲にはムーサには愛されているのに、へルメースに愛されていない人がたくさんいます。
English
イラスト by artbesouro