ブログというか、まぁ思いついたものを書いています。 ショートアニメを作っています。元舞台役者です。
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学生時代、名古屋製作の幼児番組に出演していました。出演といいましても、ぬいぐるみに入る仕事でしたので、私の顔が映ることはありませんでした。
その映像会社は幼児番組を作るは初めてで、いろいろ手探りで作っていました。その手探りに撮影の初日から参加できたのは貴重な体験でした。
ある日、家でくつろいでいるとき、何気なくつけたテレビの、幼児番組にくぎ付けになりました。東京制作の長寿番組です。
あまりのレベルの高さに驚いたのです。洗練されたセンスと経験のあるスタッフと魅力ある出演者。息がぴったり合っていて、私の参加している作品とは格が違います。私たちだってがんばっています。しかし、やすやすと追いつけるレベルではないのです。それを思い知らされました。
突然、台所にいた母が叫びました。
「何をそんな番組に夢中になっているの! もう大学生でしょう!」
母には幼児番組に出演していることを言っていませんでした。大学生の息子が幼児番組を目の色を変えて見ていたら、心配になりますね。
日ごろ何気なく見ているテレビですが、どれも大変な作品ばかりです。
どんなものでもそうですが、一度作り手の側に立ってみると、それまで見えていた景色と違うものが見えてきますね。
English
イラスト by R-DESIGN
コロナ前は毎週、母の入所する施設に面会に行っていました。
ある日、行ってみると施設ではビンゴ大会をやっていました。
私はこんなビンゴ大会を初めて見ました。誰も貪欲でないのです。
母の施設の入所者の多くが、認知症患者です。私の母に関しては、ほとんどコミュニケーションがとれなくなってから入所しました。母は、ビンゴの紙をテーブルに置いたまま、ボーっとしているのです。自分の番号が呼ばれても、反応できません。私が代わりにやりましたが、ビンゴになっても興味がないのです。そして参加者の半分くらいがそんな感じなのです。番号が決まるたび、施設の職員さんたちが、反応できない利用者の紙をチェックして回っていました。
施設の皆さんは利用者の世話だけでも大変なのに、こうしてイベントをやってくれていることに感謝しました。
認知症の人でも楽しめる。簡単なゲームはない物でしょうかね?
English
イラスト by RetroClipArt
三国志の劉備玄徳は優秀な人でしたが、戦国の世、優秀な人はライバルに殺されるかもしれませんでした。ライバルの目を欺くため、ある時期、彼はわざと鼻毛を出して生活していたそうです。優秀な人は大変ですね。
私が三十代の時でした。役者として、ある芝居のけいこをしていました。私はそのメンバーで最年長でした。若い演劇人たちは、それとなく気を使ってくれていました。最近の若い演劇人は、礼儀正しくて優しいなぁと思っておりました。
ある日のけいこの休憩時間、私はトイレの鏡を見て愕然としました。鼻毛がすごい勢いで出ていたのです。今気が付いたということは、けいこの間中、ずっと出ていたのです。あのかっこいいセリフもあの美しいセリフもずっと鼻毛を出したまま言っていたのです。
けいこ場に戻って、みんなに言いました。
「ひどいじゃないか! 鼻毛が出ているなら、出ていると教えてくれたらいいのに!」
すると、私の次に年齢の高い役者がこう答えました。
「いや~、わざと出してるのかと思いまして・・・」
「私は劉備玄徳か!」
目上の人の鼻毛が出ていたとしたら、確かに指摘しづらいですね。
しかしみなさん、もし私に会った時、私の鼻毛が出ていたら、どうかそっと教えてください! 私はライバルに命を狙われるほど優秀な人物ではないのです。
いくら命のためとはいえ、毎日鼻毛を出したまま生活するのは大変なことですよ。劉備玄徳、偉大な人だなぁ。
イラスト by moj0j0
English
名古屋市には各地に市営屋内温水プールがあります。運動のために通っていたことがあります。
市内すべてのプールがそうなのではありませんが、私の通っていたプールには、ラジオ体操の時間がありました。一時間に一度です。ラジオ体操の時間は利用者全員がプールから出なくてはいけませんでした。スピーカーから音声が流れて、監視員さんがラジオ体操をして、運動を促すのです。お子様たちなどは一緒に体操します。素直ですね。大人はベンチに座って、休んだりしていました。私もベンチに座っている派です。いい年をしてラジオ体操でもありません。
しかし、そうもいってられない事態になったのです。
市営プールは夜八時半まで営業しています。私は夜行くことが多くなりました。真冬の夜。いくら温水とはいえ、プールで泳ぐ人は少ないです。下手をすると、監視員さんと二人っきりになることがあるのです。
二人っきりでも、監視員さんは、ラジオ体操の時間になると、ラジオ体操を始めるのです。いつもなら、知らん顔をしてベンチに座っているのですが、二人っきりなのに知らん顔をしているのは感じが悪いです。
仕方ないので、利用者の人数が少ない時は私もラジオ体操をすることにしていました。
ある日、ラジオ体操の時間になりました。私は我慢できず、トイレに行きました。トイレから帰ってきて、びっくりしました。ラジオ体操の音声が鳴っているのに、監視員さんがベンチに座って休んでいたのです。トイレから帰った私の姿を見た監視員さんは、慌てて立ち上がり、ラジオ体操を始めました。私はもう家に帰ったのだと思ったのですね。
私は監視員さんを気にしてラジオ体操をして、監視員さんは私を気にしてラジオ体操。
なんだこの小芝居。
English
イラスト by nora
私の知っている演劇人で、演劇だけで生活費を稼いでいる人は少ないです。特に役者はそうです。だいたいみんな、生活のための仕事を持っています。
私の知っている演劇人で、昼間は一流企業のサラリーマンとして働いている女性がいます。私の知っている彼女は、いつも微笑んでいて、物腰の柔らかい人です。
ある平日の昼間、彼女を見かけました。彼女はスーツ姿でキメていました。地下鉄車内で書類を読んでいました。私は声をかけようと思って、近づきました。
しかし、声をかけられませんでした。鬼のような顔で書類をにらんでいたからです。仕事の邪魔をしてはいけませんし、怖かった。
一流企業でフルタイムで働きながら、演劇をするというのは、並大抵のことではありません。仕事の間は、鬼のように集中しているんですね。
その後、演劇にまつわる集まりで、彼女に再会しました。いつもの優しい笑顔でした。彼女の笑顔が大変価値あるもののように思われました。私は地下鉄の中で彼女を見かけたことを言いませんでした。
優しい笑顔でいるためには、鬼のような顔にならなければならない時があるんですね。
English
イラスト by a.otsuka