ブログというか、まぁ思いついたものを書いています。 ショートアニメを作っています。元舞台役者です。
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1990年代の終わり、私はアメリカに留学しておりました。そこでびっくりするような芝居を見ました。
理髪店が舞台で、そこの二階で殺人事件が起こるというミステリー。二階に行くには理髪店を通らないといけません。犯人は登場人物の誰か。何にびっくりしたかというと、事件の後、刑事が登場するのですが、突然こんなことを言いだしたのです。
「難解な事件だ。しかし幸運なことに、この現場には、こんなにたくさん目撃者がいる」
そして客席の電気がつきました。
なんと! 観客参加型のイベントに早変わり。刑事役が中心となり、観客が挙手して、登場人物達に質問をして犯人を捜すのです。日本でこれをやったら、なかなか参加してくれるお客さんがいないでしょうが、そこはアメリカ。中には仕込みの関係者もいたでしょうが、客席からは、怪しい登場人物を追い詰める質問が次々と。登場人物達も自分の潔白を主張して一歩も引かない。
最終的には、誰が犯人かは観客の拍手で決めることになりました。私が見た回では、一番怪しそうな演技をしていた登場人物が犯人となりました。
終演後、舞台装置や、照明などが気になった私は、舞台の近くへ行って色々のぞき込んでおりました。舞台の中央にはゴミ箱が置いてありました。カーテンコールの時に、役者の一人がそのゴミ箱を使った踊りをして、そのまま置いてあったのです。ふと、ゴミ箱の中をのぞいて、さらにびっくりしました。
ゴミ箱の中には血で染まった手袋とハサミが入っていたのです。何のことだか、一瞬では意味が分かりませんでした。
私も、他の観客も、あのゴミ箱は役者がアドリブで舞台に置いたのだと思い込んでいたわけですが、そうではなかったのです。あれは劇団からの「名探偵募集」のメッセージだったのです。
劇中、ある登場人物がこのゴミ箱を持って退場、再登場しています。その登場人物はゴミ箱の中身を知っていたはず。そして、その事を知らん顔していたのです。
この事に気がついた観客は、同じ芝居のチケットをもう一度買って、後日、ゴミ箱に注目して観劇。今度は客席から名探偵役で登場することができるのです。刑事役が質問を受付け始めたら、さっそうと手を上げて「ゴミ箱の中を調べてみろ!」と言えば、名探偵になれるのです。
長期公演でこそ可能なことですが、シャレたリピーター獲得術ですね。
理屈はわかりましたが、このチケットの代金は36ドル。現在の価値で4000円くらいでした。残念ながら、私は経済的事情で名探偵になれませんでした。
イラスト by しんたこ